小川一水|『コロロギ岳から惑星トロヤへ』を読んだ感想。
2013/06/27
いつの間にか小川一水氏の新刊、「コロロギ岳から惑星トロヤへ」が出ていたので、購入、読んでみました。
コロロギ岳から惑星トロヤへ
『天冥の標』をご愛読いただいている皆様、おつかれさまです。第VI巻『宿怨PART3』まで読んで、いやもう、とてつもなく面白いんだけど、あまりの展開に居たたまれなくなって、ちょっとこの辺りで小休止を、という方向けに、さっくり読める短めの長篇を1冊書き下ろしていただきました。それもコミカル版の『時砂の王』ともいうべき時間SFなんですが、楽しく驚きながら読んでいるうちに不意打ちのように
という帯の煽りが笑えましたが、書いているのはまさしくその通りの内容で、編集者のセンスを讃えたいです。
時の泉を泳ぐ生命体"カイアク"によって起こされる、2014年の日本、北アルプスにある太陽コロナ観測所「ココロギ岳山頂観測所」と、そこから217年先、2231年の木星近くの小惑星「トロヤ」にある宇宙戦艦内。
この2つの「楔(くさび)」に引っかかったカイアクの開放、そして開放のために前述の宇宙戦艦内に閉じ込められた男の子二人を救うために現代日本の科学者(腐女子)が時を場所を隔てた救出劇を始める!
というのがあらずじ。
「時砂の王」とはまた違った角度から創りだす時間物SF。正直、時砂の王は重くて仕方なかったのですが、今作は見事なぐらいライトでポップ、そしてハートフル。
250ページ弱で、さくっと読めたのですが、その読後感たるや。
これまで読んできた小説の中でも結構な順位に入る出来だと思います。
短めとはいえ、カイアクの設定など、目をみはる点はいくらでもありますし、先にも書いた女性科学者、岳樺百葉(だけかんば・ももは)と才谷煌海(さいたに・こうみ)の、超生物には理解できない人間の想像力ってのが笑えます。
「腐女子設定は必要だったのか」という事が感想サイトにもありましたが、あの設定のお陰でよりライトでポップになったような気がします。
ネタバレになりますが、エピローグの二人がリセットされつつも、これまでの出来事を覚えているという配慮が、感動というか「良作」と言わしめる理由だと思います。
オレンジマーマレードが真面目に楔というカイアクもなかなか萌えれますw
いやー、久々に大当たりを引いた気分。もう一回と言わず、何回か読んでみよう。